公式ファンクラブ“beat crazy”でしか体験できない布袋寅泰のアナザー・ワールド
【LIVE REPORT】
beat crazy Presents Special Gig
B.C. ONLY +1 2022(振替公演)
2023.02.26 at Zepp DiverCity


 日本中が歓喜した『2023 WORLD BASEBALL CLASSIC』でも鳴り響いた、布袋寅泰が世界に放った「BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY」。選手の力、そしてファンによる想いが集積してたどり着いた優勝への道。そんな夢のような現実を堪能した瞬間だった。布袋寅泰にも、そんな信頼関係を構築するプレミアムなファン・コミュニティーが存在する。

 発足20年を迎えたオフィシャル・ファンクラブ“beat crazy”だ。

 布袋本人への独占インタビューや貴重な写真、ツアーの裏側へと迫った密着レポートなどを掲載した会報誌。コンサート・チケットの優先販売。メンバーの質問に布袋自らが答え語りかけるウェブ・ラジオや毎月更新される動画メッセージなど、布袋を身近に感じられるコンテンツが豊富な“beat crazy”。長きに渡り布袋と会員が丁寧に向き合っているファンクラブ組織だ。

 会員特典の中でも特に注目したいのが、毎年開催されるスペシャル・ライブ『B.C. ONLY』である。通常のライブやツアーではなかなか演奏されないレアな選曲やアレンジ、バンド編成が魅力のステージ。いわゆるリリースやアルバムに固執しない楽曲が聴けるという、どんな曲が飛び出すかわからない緊張と期待の高揚感。新型コロナウイルス感染症の影響で延期となっていた『B.C. ONLY 2022』が2023年2月に大阪と東京で開催された。この『beat crazy Presents Special Gig B.C. ONLY +1 2022』(振替公演)が凄かった。

 そもそも、2021年から2022年にかけての“布袋寅泰40周年”は前途多難を示した。突然のコロナ禍の到来に振り回され、アニバーサリーのキックオフとなった日本武道館2日間公演『HOTEI 40th ANNIVERSARY Live “Message from Budokan”』は急遽無観客配信に切り替えられた。しかしその後、最新アルバム『Still Dreamin'』を引っさげての全国ツアー。すべてを集約した『HOTEI the LIVE 2022. Rock'n Roll Circus “40th Anniversary Final Party!”』など、逆境をバネにして駆け抜けた40周年プロジェクト。その勢いは止まらなかった。

 そしてついにオーディエンスによる歓声が解禁となった2023年2月26日。布袋寅泰のファンクラブ会員限定のスペシャル・ライブ『beat crazy Presents Special Gig B.C. ONLY +1 2022』(振替公演)が開催された。


 布袋は、“beat crazy”のスペシャル・ライブ『B.C. ONLY』について、「ある意味、僕にとって実験の場であり、つべこべ考えず音を楽しめる場所でもあって、パーティーでもあり真剣勝負でもあり」と、MCで語っていたのが印象的だ。布袋にとっては余計な武装を解除して、ピュアなロック少年の気持ちに回帰できる、気のおけないサンクチュアリとでも言うべきか。しかも東京会場はZepp DiverCityというライブハウス。ステージとフロアの距離が近い、爆裂な臨場感に満ちたパフォーマンス。さらに、念願の声出し解禁である。3年間、まさに夢に見ていた光景だ。

 飛び交う「HOTEI!」と言う声援。ステージに颯爽と登場するバンド・メンバー。布袋は私服であろうピンクのジャケットをまとい、カジュアルな趣だ。オープニングは「I’M FREE」。壮大な世界観を持つハイヤーセルフをテーマとしたロック・チューン。ギターはおなじみ、ZEMAITISのMETAL FRONTを使用。今回のバンド・メンバーは、ツアーでもおなじみの黒田晃年(ギター)、井上富雄(ベース)、古田たかし(ドラムス)に布袋を加えた鉄壁の4ピース。シーケンスの同期を一切使わず、骨太なバンド・サウンドを「DRIVIN' TO YOUR HEART TONIGHT」、「DOBERMAN」とドライブさせ、胸熱なロック・ナンバーをこれでもかとハードにプレイ。キーボード、マニピュレーターが参加するツアー時のアレンジとは異なる、ギターによるエフェクトを活用した生々しくレアなプリミティブ・サウンドが耳に新鮮だ。

 緩急つけて、インストでのダンサブルなパーティー・ロック「FINGER SKIPPIN' JIVE」では、アイコンタクトだけで楽器が会話をするかのような気持ちの良い音使いで会場の雰囲気をやわらかくする。続けて、なんと10数年ぶりの演奏となった「King & Queen」では、ギター・パートをブライアン・セッツァーに委ねていたオーケストレーションと溶け合ったレコーディング版からバンド・アレンジへと変化。主なギター・パートを黒田晃年が演奏しているのがポイントだ。斬新なアイディアによるクリエイティビティーに富んだオリジナルなプレイを堪能させてくれた瞬間だった。この展開は、布袋自身も新鮮にステージを楽しんだのではないだろうか。

 続けて、シングル「さらば青春の光」のカップリングに収録されていた「七年目の幽霊」を悠遠なるままにプレイ。流行り廃りではないブルージーな泣きの音色が轟く。布袋ならではの、幅の広いマニアックな選曲だ。続いて布袋はジェフ・ベックへ哀悼の意を表し、自身のナンバー「ハウリング」をジェフ・ベック・モデルでプレイ。ライブは中盤以降、さらにその深みを帯びて内的宇宙に火を灯す。布袋のギター・プレイは、意識進化の目覚めのようだった。空間を切ないミストでいっぱいにする、虹のような音色が響き渡ったのだ。

 ここで空気が一変した。耳慣れないエレクトロなSEが鳴り響き、布袋による「今日のスペシャルゲストを紹介します!」の一声で、まさかのゲストに女優・創作あーちすととして知られるのんが登場するサプライズ。のんは、ロックを基軸とした音楽活動も盛んに行なっており、テレキャスターを愛好するギタリストでもあるのだ。実際、腰の入ったギター姿が様になる。思いがけないゲストに沸き立つオーディエンス。こんな思いもよらないスペシャルなセッションが起こるのも『B.C. ONLY』の楽しいところだ。

 赤いテレキャス=のん、黒いテレキャス=布袋、“テレキャスターズ”の降臨だ。のんとは、音楽シーンを牽引した先輩であり、つい先日に天国へ先に旅立だった高橋幸宏、鮎川誠への追悼としてグラムロック・テイストな「タイムマシンにおねがい」(サディスティック・ミカ・バンド)、ウォール・オブ・サウンド風な「ユー・メイ・ドリーム」(シーナ&ザ・ロケッツ)をロッキンにプレイ。少し危く儚げな、しかしながらまっすぐな意志を持って天まで届くアッパーな歌声によってカバー。タイムリーな選曲が飛び出し、様々な思いがよぎり、思わず涙したオーディエンスも多かったことだろう。

 ここで布袋とのんの掛け合いによるMC

布袋:ようこそ『B.C. ONLY』へ! のんちゃんとはラジオのお仕事で会って音楽の話をして。彼女はシンガーでもあり、ギタリストとして気持ちの良い演奏をしてくれます。見ての通り、テレキャスターなんですね。赤テレ・ガールと黒テレお兄さん(笑)。テレキャスター弾き同士って、なんとなく通じるものがありません?
のん:すごく嬉しくって。ラジオの時も仲間に入れてもらえたような気がして。
布袋:このジャキジャキ感というか刻み感というかカッティング。ソリッドなカッティングを聞かせてくれたんですよ。リハの時も、瞬間でシャキーンと空気が変わって。ガツっと一体感が増しました。

 のんによるソリッドな8ビート・チューン「やまないガール」では、布袋は一歩後ろでギター・プレイに徹していた事も印象的だ。布袋の、ボーカリストを斜め後ろから見る視線からは、40年に渡る様々な物語が呼び起こされる。音楽好きにはたまらないのんオリジナルの同曲は、ニューウェーブ調なビートの効いたロック・ソングであり布袋サウンドとの相性も抜群だった。のん曰く「布袋さんとこの曲を一緒に演奏できて、めちゃくちゃ楽しい!」とオーディエンス同様に盛り上がっていた。

 そして布袋が「もうちょっといこうかな、やっちまいますか?」、のんが笑顔で「やっちまいますか!」と布袋ソング「やるだけやっちまえ!」をセッション。のんによる透明感いっぱいに響き渡るキュートなコーラス・ワークが新鮮だった。“夢見ることから自由は始まる”と歌う本作は、人生の先輩布袋から若き表現者、のんへのエールのようにも聞こえた。

 のんをステージ・サイドに見送り、布袋寅泰のロマンティックな側面であるギター・カッティングに絡み合う疾走感あるビートが絶妙なポップ・ソング「Shape Of Pain」、耳が喜ぶギターの指運びがグッとくる布袋作詞によるロンドン賛歌「London Bridge」、そしてキラキラとエフェクティブに空間に響き渡る「DANCING WITH THE MOONLIGHT」での魔法めいたプレイに酔いしれるフロア。4ピース・バンドのみでの演奏のレアさが表れる楽曲たちだ。原曲や通常ツアー時のプレイと聴き比べると、『B.C. ONLY』の貴重さがヒシヒシと伝わってくる。

 さらに、とどめとして布袋曰く“自分を追い込んで追い込んで自分らしさを求める旅の歌”「BEAT EMOTION」。そしてライブ・アンセム「C'MON EVERYBODY」が4ピースによる圧巻の演奏力によってフレッシュに繰り広げられ、会場は破裂寸前の大盛り上がりへ。オーディエンス全員のジャンプで、Zepp DiverCityがリアルに大きく揺れていた。なかでも「BEAT EMOTION」の間奏のスリリングな掛け合いは鳥肌ものだった。世界へ誇りたいメンバーのスキルフルな極上のプレイに度肝を抜かれた。ロックンロールの醍醐味に触れたモーメントだ。

 気がつけば、本公演ではBOØWY曲もCOMPLEX曲も演奏されなかった。あまりにナチュラルだったので、みんなそんなことは気がつかなかったと思う。布袋寅泰のレパートリーの芳醇さ、そして追悼を込めたリスペクトが伝わる時代性への適応力を感じたライブとなった。なによりもライブ中に鳴り響く、オーディエンスからの布袋コールの熱さに心を鷲掴みにされた夜だった。

 ラストは「サンキュー、beat crazy! 今日はひさしぶりにみんなとロックンロールできて嬉しかったです。(beat crazy発足)20周年と言わず、30周年、40周年と言わず50周年。60周年、70周年。とにかくいけるところまで一緒に行こうぜ! 今日はありがとう!」と語り、最新アルバム『Still Dreamin’』から「Let's Go」をプレイ。布袋寅泰音楽活動40周年を経て、さらなるステージへと突き進んでいく決意表明をサウンドを通じて宣言した。

 もし、ファンクラブ・スペシャルライブ『B.C. ONLY』が気になり未加入の方は、これをきっかけに“beat crazy”への加入をオススメしたい。早くも『beat crazy Presents Special Gig B.C. ONLY +1 2023』開催が発表された。40周年を経て、今もなおキャリア最高潮のライブを更新中の布袋寅泰。“最新のHOTEIが最高のHOTEI”。常に最高をアップデートし続ける驚きの布袋ワールド、その激レアなアナザー・サイドがあなたを待っている。

Text fukuryu (music concierge)
Photo Michiko Yamamoto


【SET LIST】
I'M FREE
DRIVIN' TO YOUR HEART TONIGHT
DOBERMAN
FINGER SKIPPIN' JIVE
King & Queen
七年目の幽霊
ハウリング
タイムマシンにおねがい [with のん]
やまないガール [with のん]
やるだけやっちまえ! [with のん]
ユー・メイ・ドリーム [with のん]
Shape of pain
BEAT EMOTION
C'MON EVERYBODY
London Bridge
DANCING WITH THE MOONLIGHT
Let’s Go